【介護予防コラム⑳】肩関節&股関節を柔らかく、いつまでも健康に!
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はじめに ~平均寿命と健康寿命~
令和2年版高齢社会白書によると、日本人の平均寿命は男性81歳、女性87.1歳です。平均寿命に対して健康寿命とは、日常生活に支障なく健康的に過ごせる期間のことをいい、この健康寿命をいかに延伸させることができるかが、生活の質に大きな影響を及ぼします。
ずばり、健康寿命を延ばすポイントは、いかに健康な状態を維持するかです。
健康寿命の終わりとなる「要介護状態」を防ぐには?
ここで、要介護状態になる主な原因を見てみましょう。
厚生労働省データ2019年国民生活基礎調査の概況)によると「介護が必要になった主な原因」は「認知症(24.3%)」「脳血管疾患(脳卒中)(19.2%)」「転倒骨折(12%)」となっています。
トップの認知症は高齢社会のますますの進展で、今後も増加し続けることが予想されますが、「脳血管疾患」「骨折転倒」といった日頃のケアで防止できる可能性の高い症状がランクインしていることは着目しなければなりません。
日ごろのケアで防止できる原因その1 脳血管疾患
「脳血管疾患」の原因はさまざまですが、遺伝的要因より生活習慣の積み重ねによる要因がその発生原因となることが多いんです。つまり、大切なことは、適切な食事を取り、適度な運動を習慣化し、ストレスを溜め込まないこと。そして、体重や体脂肪率を管理することが重要になります。
日ごろのケアで防止できる原因その2 転倒骨折
一方、骨折や転倒の防止には、転倒の原因が生活環境にある「外的要因(つまづいたり通りづらかったりするような障害物がある)」を取り除くことはもちろん、本人自身に何らかの転倒要因がある「内的要因(筋力の低下、歩行障害、動作の制限、病気、心肺機能の低下など)」を取り除くことです。
少しマイナーな要因かもしれませんが、今回は体の動作を制限する大きな要因である「関節可動域」に注目してみます。後述しますが、関節可動域が制限なく大きくなると、その動作において大きな力を働かせることができ、トレーニングにおいても大きな効果が期待でき、日常生活上の動作がスムーズになり障害の予防や間接的に筋力の強化にも役立ち結果的に転倒防止にもつながります。
今回は、この関節可動域について詳しくお話ししていきます。
関節可動域とは
日常生活を送る上で、肩関節や股関節、膝関節など身体のさまざまな関節をスムーズに動かす必要があります。しかし、何らかの要因で関節をスムーズに動かせなければ、身体活動は制限されることになり、そのまま不自然な状態で身体活動を続けてしまうと障害などが現れたりします。
「関節可動域」とは、各関節が傷害などを起こさないで自然に運動することができる範囲(角度)のことを言います。専門用語では、Range Of Motionと呼ばれ「ROM」と略されて使われることがあります。
関節可動域が制限される要因にはさまざまなものがありますが、皮膚や骨格筋、関節包(関節を包んでいる袋状に皮膜のこと)などの関節周囲軟部組織に原因がある場合と、骨・軟骨などに問題がある場合があります。もちろん加齢や日常生活の不活動などがその原因に関わっていることは言うまでもありません。
身体をスムーズに動かすには、この関節可動域を適切な範囲に保っていく必要があり、この関節可動域が制限されると前述の通り障害が現れたりし、大袈裟にいうと先述した「転倒」の要因につながりかねません。
では、日常生活と関節可動域の関わりについて考えていきましょう。
日常生活動作と関節可動域の関わり
①肩関節
肩関節は関節の中でも特に可動性の高い(多方向に大きく動く)球関節という種類の関節です。
加えて、肩甲骨の動きなくして肩関節の動きはないといっても過言ではないほど、肩甲骨の動きは肩関節の動きに連動しています。
この肩関節の関節可動域に制限があると、例えば腕を上げる動作に可動制限がかかり、日常生活では高いところにあるものを取る、洗濯物を干す取り込むといった動作が制限されることになります。
②股関節
股関節は、その骨格の構造や靱帯、周りを取り囲む大きな筋肉のサポートにより非常に安定した関節です。この関節は自由な可動域を特徴として、荷重や歩行で機能し、ランニング、サイドステップ、ジャンプ、多方向への方向転換が行えます。
少し専門的になりますが、股関節の周囲の筋肉には大腿直筋・大腿二頭筋・大殿筋などの筋肉があります。その中で、いくつかの筋肉の伸張性(伸びたり縮んだりする性質)が低下していると、腰部や膝関節がうまく機能できなくなり、日常生活の例えば立ち上がり動作においては「立ち上がれない・前のめりにバランスを崩す・膝腰に負担」など、歩行動作においては「足が上がらない・地面を蹴れない・つまづく・不安定な歩行」などにつながります。
では、どうすれば関節可動域を良好な状態に改善し、保つことができるのでしょうか。
関節可動域を改善させるためのセルフケア
関節可動域を制限する要因は、そもそもの関節の可動範囲とその周辺筋肉の柔軟性です。つまり、この両方に働きかけてあげることが関節可動域を高める上で重要です。具体的には、関節のさまざまな動き(関節をほぐす動き)を行うこと、そして周辺筋肉のストレッチングです。加えて全身の筋力強化も大切です。
ただし、痛みの強い方や関節に疾患のある方は専門医の指導を仰いでください。
①肩関節のほぐし運動
肩甲骨の動きなくして肩関節の動きはありません。肩関節の外転運動(外に向かって上げる動作)の正常な可動域は180度と言われており、120度を肩の関節が、残りの60度が肩甲骨の動きと言われるほど肩甲骨の動きは大事なんです。
肩甲骨の動きをチェック!
肩の水平ラインから、腕が上がったところまでの角度をチェックしてみてください。60度以上上がれば大丈夫です。
次に簡単なセルフマッサージを紹介します。(ポイントは、強い力で揉まないこと!)
・鎖骨の周りの筋肉をほぐす。
鎖骨は体幹と肩・腕をつなぐ大切な骨です。この周辺が硬くなると、体幹と肩・腕の連動が上手くいかなくなり、肩関節の動きが悪くなります。
鎖骨の下の筋肉を胸の骨から腕の付け根までほぐしましょう。(ほぐす側とは別の手でやると良い)
・脇の下ほぐし
脇の下周辺には肩甲骨と肩・腕、肋骨をつなぐ大切な筋肉が集中しています。
脇を開いて脇の下の筋肉をつかみ、脇を閉じてほぐしましょう。
肩周りのトレーニング
腕と肩甲骨をつなぐ筋肉を鍛える事で、肩関節の連動した動きをとることができます。
【運動の方法】
500mlのペットボトルに水を入れ(量はご自分に合った重さになるように調整)、立った状態で肩を外側に上げ80度くらいで手のひらを手前に向けます。
そのまま上げていき腕が耳についたら(上がる範囲で上げる)同じ軌道で元の位置へ。
【運動の方法】
ペットボトルを持ち、肘は伸ばしたまま前方へ腕を上げます。
振り子のように上げた手を後ろに持っていきます。
②股関節のほぐし運動
前述の通り、股関節の周囲の筋肉には大腿直筋・大腿二頭筋・大殿筋などの筋肉がありその中で、いくつかの筋肉の伸張性が低下していると、腰部や膝関節の障害発生に深く関わることを説明しました。
それらの筋肉群をほぐすストレッチングを紹介します。(1回10秒〜20秒)
・股関節付け根から内腿のストレッチ
【ストレッチの方法】
①背筋を伸ばし、足を開いて椅子に座りお腹をへこませて、背筋を伸ばします。
②息を吐きながら、左手で左内腿を外側へ押しながら上体を右へねじります。
一旦息を吸い、息を吐きながら上体を正面に戻します。
③息を吐きながら、右手で右内腿を外側へ押しながら上体を左へねじります。
一旦息を吸い、息を吐きながら上体を正面に戻します。
・腸腰筋のストレッチ
【ストレッチの方法】
①片膝立ちの状態で膝、股関節、肩が一直線になるようにします。
②その状態から前に向かって体を倒していき、股関節前面が伸びているのを意識します。
・臀部(お尻)のストレッチ
【ストレッチの方法】
①椅子に浅く腰掛け背筋を伸ばします。
ももの上に片方の足を乗せます。
ももの上に置いた足を床と平行になるようにします。(手で押しても良い)
②足が平行になったら背筋を伸ばし前方に体を倒します。
お尻が伸びているのを意識します。
・ハムストリング(裏もも)のストレッチ( タオルを用意します)
【ストレッチの方法】
①仰向けになりタオルを両手に持ちます。(背中の下に枕などを敷いても良い)
膝を曲げ足の裏にタオルを掛けます。
②ゆっくり息を吐きながら膝を伸ばしていきます。
裏ももが伸びているのを意識します。(痛みが強い場合は軽く膝を曲げても良い)
・股関節の運動1
【運動の方法】
①長座の状態で股関節の付け根に手を添えます。
②そこから足先で半月を描くように内外へ開きます(股関節の付け根から動かすイメージ)
両足の距離は一定に保ちます。この運動を20秒〜30秒間行います。
・股関節の運動2
【運動の方法】
①立った状態で椅子などにつかまります。
②③リラックスした状態で片足を振り子のように前後に振ります。
【運動の方法】
椅子などにつかまって立ったら、今度は足を左右に振ります。
力を抜くこと、体を傾けないことが大事です。
股関節周辺のトレーニング
股関節周辺のトレーニングは膝関節と密接な関係があるため、トレーニングに関しても同じ筋肉を鍛える事がとても大切です。特にお尻と裏もものトレーニングはとても効果的です。
介護コラム15 膝に痛みのある人にオススメの運動
筋力トレーニング編参照
最後に
ここでは肩関節と股関節に注目して例をあげていきましたが、人間の身体には関節が200個以上存在します。その関節の一つひとつに重要な役割があり、いくつもの関節が連動して私たちの身体は動くことができます。例えば歩行時の股関節、膝関節、足関節の連動などはいい例です。このように関節可動域を適切に保つこと、そして広げてあげることは、障害の防止につながり日常生活を快適にするとともに、転倒予防にもつながります。
関節可動域を高めるには、関節周りのほぐし運動やストレッチングを適切に継続して行うことが大事です。
とは言っても、継続して行うことが大事だとわかっていてもなかなか続かないのが現状ですよね。そんなときの裏ワザをお伝えします!
【続けるコツ】
ほぐし運動やストレッチングを行った日はカレンダーにチェックを入れてみてください。そして、1週間にやると決めた回数(例えば5回)以上チェックが入れば、家族からご褒美をもらえる、というような約束をしてみてください。バカバカしいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは、行動変容に基づく技法で「行動(ほぐし運動やストレッチングを行う)」を強化する手法です。
試しにぜひ行ってみてください。飛躍的に継続できるようになるはずです!
今回の執筆者は…
レッツリハ白山駅前
柔道整復師 高橋桂太